引退後〜第二の人生〜

非凡な才能に恵まれた一部のプロスポーツ選手は、冨と名声を手に入れることができ、私たち普通の人間は羨望の眼差しで彼らを見つめます。
野球の世界では、今年も10月のドラフト会議によって、将来へ大望を抱く若者たちのプロへの道が作られました。そして、私たちは若い彼らがもらうであろう多額の契約金の額を思って、複雑な心境になるのです。
子供の頃から野球を始め、中学、高校、(大学)と明けても暮れても野球漬けの青年期を送り、一握りの人が念願のプロの選手になります。しかし、プロとして現役でやれるのはせいぜい三十代半ばまでです。
人生80年と言われる時代において、なんとも短い現役生活です。

下記の表は2001年と2002年のプロ野球の引退選手を3つの年代別に、人数とその割合を表したものです。

(日刊スポーツ資料より抜粋)

  年 代 別 区 分

人 数

パーセント

①若年引退選手(入団1〜7年)

70

43.2

②中堅引退選手(入団8〜16年)

74

45.7

③ベテラン引退選手(入団17年以上)

18

11.1

合 計

 162人

 100.0%


①の若年選手と②の中堅選手の引退割合で、全体の9割を占めています。
つまり、高校を卒業してプロの選手になったとして、およそ34歳頃までには、大半の人がその職を失うことになるという厳しい現実を示しているのです。

野球に限らず、サッカー、テニス、相撲、ボクシングなどといったプロスポーツ選手の現役時代は本当に短いものです。
現役の間は、24時間365日、毎日コンディションを整え、練習をし、試合に臨み、また明日に備えて精進するという日の連続だろうと想像します。
そして、私たちは、彼らが、試合に勝つため、賞金を稼ぐため、名声を維持するため、優勝するため、タイトルを獲るために、必死にその十数年を生きていく姿に、感動と共感を覚え、ヒーローとして喝采をするのです。
しかし、同時に私は、ひとりの人間の人生の中の『現役が終わる日』のことを、いつ彼らは考えるのだろうかと気になってしまいます。
多分、「その日」のことなど、「その日」が目の前に来るまで考えないのでしょう。そうでなければ、勝つか負けるかの勝負に望めないだろうし、もっともっとと自分の技量を上げるための努力はできないのじゃないかと推測します。
そして、やがて、体力・気力の限界という日が来て、彼らはそれまでの人生のすべてを賭けて打ち込んできた選手生活から退くことになります。
そしてまた、気になります。
彼らはそれからの人生をどのように生きていこうとするのだろうか。
次なる進路が、簡単に見つかるとも、考え付くとも思えないからです。彼らは、24時間体制でその選手生活をしていたでしょうし、その世界しか知らないでしょう。
すぐに、そのスポーツのコーチや監督になれる人は、ほんのわずかです。プロの選手としてその世界でやっていたからといって、指導する能力や素質はまた別のものですから、そんなに単純になれるものではないでしょう。

下記の表は、プロ野球引退選手の引退後の進路希望割合です。

(日刊スポーツ資料より抜粋)

引退後の進路

パーセント

日本プロ野球界以外での選手継続者

13.6

球団コーチ等指導者・スカウトマンなど

17.9

球団打撃投手・ブルペン捕手・スコアラーなど

24.1

野球解説者・野球評論家

6.2

起業自営業者

1.2

家業等を継承した自営業者

1.2

被雇用者の内 建設関係・タクシードライバー

0.6

被雇用者の内 営業マン・会社員

4.9

マッサージ師・針灸・ゴルファー等スポーツ系資格志望者

2.5

消防士・教員・留学等学業資格志望者

3.1

未定者

24.7

合      計

 100.0%


先に引退選手を3つの年代別に分類した表を掲示しましたが、それと野球関係への進路を合わせて割合を表にしたものが、下記です。

(日刊スポーツ資料より抜粋)

 

野球関係者

非野球関係者

未定者

合 計

①若年引退選手

51.4

15.7

32.9

100.0

②中堅引退選手

63.5

13.5

23.0

100.0

③ベテラン引退選手

94.4

5.6

0.0

100.0

合  計

 61.7%

13.6%

 24.7%

 100.0%


現役生活が長い選手ほど野球関係の進路を選択できる傾向があるのがわかります。
しかし、ベテラン引退選手は全体の1割しかいません。
引退後の進路が未定であるベテラン引退選手が0%であるのに対して、若年・中堅引退選手の約半数が引退後の進路が未定であるということがわかります。

ある球団の現在の監督が言った言葉です。
「引退選手の中には現役時代と引退後の落差に戸惑い、うまく切り替えることができず、競技引退後、物質的、あるいは精神的に惨めな生き方をしなくてはならなかった人たちが数多くいる」
私たち、普通の人間にとって、プロスポーツ選手は、憧憬であり、羨望の対象ですが、そこには輝かしい光と暗い影が存在しているのです。
幼い頃に夢見た、プロスポーツ選手になることが人生のゴールではないことは言うまでもないことです。しかし、それを夢見る若者にとって、それはまさしく人生の目標、人生のすべてに思えるのでしょう。それを否定してしまうことはできません。
“未知の第二の人生”があることを知り、何が起こっても後悔しないという強い気持ちと、プロスポーツ選手を夢見て努力したこと、プロ選手としての経験できたことを誇りとし、その後の人生の目標と夢を見つけてもらいたいものです。
そして、私たちは、つい、その表に現れる“輝かしい光”の部分だけを見がちではありますが、「光」があるということはそこには必ず「影」があるということを推し量らなければいけないと思います。
また、プロスポーツ選手のような栄光はありませんが、幸い私は5年後10年後を前もってゆっくり考えていける人生を歩いています。
夢や目標を持ち、後悔のないような生き方をしなければと自戒します。


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